自治体資料の電子化。紙からデジタルへの移行

なぜ今、自治体の文書電子化が求められているのか

現代の自治体では、長年にわたって蓄積された膨大な紙資料が保管スペースを圧迫しています。そのため、書庫や倉庫が常に満杯の状態となり、新たな資料の保管場所を確保するのが困難になっています。また、これらの資料を維持管理するためには、温度や湿度の管理、虫害対策などの費用が継続的に発生します。さらに、紙資料の劣化は避けられず、時間の経過とともに貴重な情報が失われていく危険性も高まっています。

一方で、社会全体がデジタル化へと急速に移行する中、行政サービスにもデジタル対応が強く求められるようになりました。住民からの問い合わせや申請に対して、迅速かつ正確に対応するためには、必要な情報にすぐにアクセスできる環境が不可欠です。しかしながら、紙の資料に頼っていると、必要な情報を探し出すのに時間がかかり、行政サービスの質の低下につながりかねません。

加えて、近年頻発する自然災害の観点からも文書電子化の必要性が高まっています。地震や水害によって紙資料が一度に失われるリスクは決して小さくありません。そのため、重要な行政文書や歴史的資料を電子化して複数の場所に保管することで、万が一の災害時にも貴重な情報を守ることができるのです。

文書電子化がもたらす具体的なメリット

文書を電子化することで、最も大きな変化が生じるのは検索性の向上です。紙の資料では目次や索引を頼りに手作業で探す必要がありましたが、電子化された文書では全文検索が可能になるため、必要な情報を数秒で見つけ出すことができます。そのため、住民からの問い合わせに対する回答時間が大幅に短縮され、業務の効率化につながります。

また、電子化された資料は庁内の異なる部署間で容易に共有することができます。そのため、従来は特定の部署でしか利用されていなかった情報が、他の部署でも活用されるようになり、行政サービス全体の質が向上します。さらに、適切な権限設定を行えば、一部の情報を広く一般公開することも可能になり、住民への情報提供サービスを充実させることができます。

紙の資料は時間の経過とともに劣化しますが、電子化されたデータは適切に管理すれば劣化せず、半永久的に保存することが可能です。そのため、歴史的価値のある貴重な資料を後世に残すことができます。加えて、原本はより適切な保管環境で保存しながら、日常的な閲覧には電子データを利用することで、原本の劣化を最小限に抑えることができるのです。

そして、大量の紙資料を電子化することで、これまで書庫として使用していたスペースを別の用途に転用することが可能になります。例えば、住民サービスのための窓口拡充や職員の作業スペース確保など、施設の有効活用を図ることができるでしょう。

電子化における課題とその解決策

自治体が保有する資料の中には、A3、A2、A1といった大判の図面や地図が数多く含まれています。これらの資料は一般的な複合機では対応できないため、特殊な機器が必要となります。しかし、現在では大判専用のスキャン装置が開発されており、高精細な電子化が可能になっています。また、複数の画像を組み合わせて一つの電子データとする技術も進化しており、大判資料の電子化の障壁は大きく下がっています。

また、古文書や歴史的資料など、貴重な原本を傷つけることなく電子化する必要がある場合もあります。そのような場合には、非接触型のスキャン技術を活用することで、資料を開いたり押さえたりする必要がなく、原本を傷めることなく高品質な電子化が可能です。特に、専門業者が持つ最新の技術を活用することで、これまで電子化が難しいと思われていた資料でも安全に処理できるようになっています。

電子化した資料を有効に活用するためには、適切な整理・分類方法が重要です。メタデータ(資料の内容を説明するデータ)の付与や、資料の種類や作成年代に基づく分類体系の構築などが必要となります。このような作業は専門的な知識が必要な場合もありますが、初期投資として適切に行うことで、将来的な資料の検索性や活用性が飛躍的に向上します。

電子化にかかる費用は決して小さくありませんが、すべての資料を一度に電子化する必要はありません。まずは頻繁に利用される資料や劣化が進んでいる貴重資料など、優先度の高いものから段階的に進めることで、予算の制約がある中でも効果的に電子化を進めることができます。また、中長期的な計画を立てることで、年度ごとの予算確保も計画的に行うことが可能になります。

電子化プロジェクトの進め方

電子化プロジェクトを始める第一歩は、現状分析と対象資料の優先順位付けです。まず、保有する資料の種類や量、利用頻度、劣化状態などを調査します。次に、その結果に基づいて、①即時に電子化すべき資料(頻繁に利用される文書や劣化が進んでいる貴重資料など)、②中期的に電子化すべき資料、③長期的に検討する資料、に分類します。このような優先順位付けを行うことで、限られた予算と時間の中で最大の効果を得ることができます。

電子化の作業には、内部で行う方法と外部業者に委託する方法があります。少量の定型的な文書であれば、複合機を使用して職員が電子化することも可能です。しかし、大量の資料や大判資料、貴重資料の場合は、専門的な機器と技術を持つ外部業者に委託することが効率的です。また、内部と外部の適切な役割分担を考えることで、コスト削減と品質確保の両立が可能になります。

電子化のプロセスは基本的に、①前処理(ホチキスの除去、破損箇所の補修など)、②スキャン、③画像処理、④OCR(文字認識)処理、⑤メタデータ付与、⑥保存・管理システムへの登録、という流れで進みます。検索性を高めるためには、OCR処理とメタデータの付与が重要です。OCRにより文書内の文字を認識することで全文検索が可能になり、メタデータにより資料の作成日、作成者、内容分類などを付与することで多角的な検索が可能になります。

電子化したデータの保存方法としては、クラウドサービスを利用する方法と、自治体内のサーバーで管理する方法(オンプレミス)があります。クラウドサービスは初期投資が少なく、災害時のデータ保全にも優れていますが、長期的なランニングコストや情報セキュリティの観点から慎重な検討が必要です。一方、オンプレミスは初期投資は大きいものの、長期的なコスト管理や情報管理の自由度が高いという特徴があります。自治体の規模や予算、セキュリティポリシーに応じて最適な方法を選択することが重要です。

電子化資料の利活用戦略

電子化した資料は、可能な範囲で広く公開することで、その価値を最大化することができます。例えば、古地図や写真、統計資料などは、個人情報や著作権に配慮した上で、オープンデータとして公開することができます。これにより、市民が自治体の情報に容易にアクセスできるようになり、行政の透明性向上と市民サービスの充実につながります。

また、電子化した資料を地元の学校や研究機関と共有することで、教育や研究活動に活用することができます。地域の歴史や文化に関する資料を教材として提供することで、児童・生徒の郷土愛を育む教育活動が可能になります。さらに、大学や研究機関との連携により、専門的な観点から資料の価値を再評価することもできるでしょう。

電子化された地域の歴史資料や文化資料は、観光資源としても活用できます。例えば、古地図や古写真をスマートフォンのアプリと連携させることで、観光客が現在の景観と過去の景観を比較しながら町歩きを楽しむことができます。このような取り組みは、地域の魅力を高め、観光客の増加や滞在時間の延長につながり、地域活性化に寄与します。

電子化のための予算確保と支援制度

自治体の文書電子化には、国の様々な補助金や交付金制度を活用することができます。例えば、総務省の「自治体デジタル・トランスフォーメーション推進事業」や「地域活性化事業」などが該当します。これらの制度は年度ごとに内容が変わることがありますので、最新の情報を収集することが重要です。申請にあたっては、単なる電子化だけでなく、業務改革や住民サービス向上など、より広い視点でのプロジェクト計画を立てることが採択の可能性を高めます。

また、地元の大学や企業と連携することで、費用負担を軽減する方法もあります。例えば、大学の研究プロジェクトとして資料の電子化に取り組むことで、研究費の一部を活用することができる場合があります。また、地元企業の社会貢献活動の一環として支援を得ることも可能です。さらに、前述のように市民ボランティアの協力を得ることで、一部の作業コストを削減することも検討価値があります。

限られた予算の中で効果的に電子化を進めるためには、段階的な導入計画が欠かせません。まず、小規模なパイロットプロジェクトを実施し、その効果を検証した上で、次のステップに進むという方法が有効です。このアプローチにより、初期投資を抑えながら、経験とノウハウを蓄積することができます。また、成功事例を作ることで、次年度以降の予算獲得にも有利に働きます。

これからの自治体に求められるデジタル資産管理

文書の電子化を持続可能な取り組みとするためには、適切な体制構築と人材育成が不可欠です。具体的には、電子文書管理の責任部署を明確にし、各部署との連携体制を構築することが重要です。また、職員向けの研修プログラムを実施し、電子文書の作成、保存、検索に関する知識とスキルを向上させることが必要です。このような体制と人材があってこそ、電子化された資料が有効に活用されるのです。

電子化したデータを長期的に保存・活用するためには、データ形式の標準化が重要です。特定のソフトウェアに依存する形式ではなく、PDFやTIFF、JPEGなど、広く普及している標準形式を採用することで、将来的なシステム更新時のデータ移行リスクを低減できます。また、メタデータの付与方法についても、国際的な標準規格に準拠することで、他機関とのデータ連携が容易になります。

今後の自治体においては、文書の電子化は単なる紙からデジタルへの移行ではなく、自治体全体のデジタル変革(DX)の一環として位置づけられるべきものです。電子化された文書は、業務システムや住民サービスと連携することで、より大きな価値を生み出します。例えば、電子申請システムと文書管理システムの連携により、申請から承認、保管までのワークフローをシームレスに電子化することができます。このように、文書電子化を起点として、自治体の業務全体のデジタル化を推進することが、将来的な行政サービスの質の向上と効率化につながるのです。

自治体の文書電子化は、単なる保管スペースの問題解決だけでなく、行政サービスの質の向上、貴重な資料の保全、業務の効率化など、多くのメリットをもたらします。もちろん、初期投資や体制構築など、取り組むべき課題もありますが、段階的な計画と適切な外部リソースの活用により、無理なく進めることが可能です。

有限会社ダックでは、大判資料や貴重資料の電子化など、自治体の文書電子化に関する豊富な実績と専門知識を持っています。資料の状態や目的に応じた最適な電子化方法のご提案から、実際の作業まで、トータルでサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

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